単位にならない自由課題を与えることで学生の能 力は伸ばせるか?

 最近、工学系の学部をもつ大学では学生達が自由に使えるオープンファクトリーを用意する
ところが増えてきました。広く綺麗な建物のオープンスペースに、パソコン、各種測定機器、
工作機械などが用意されていて、大学院生をはじめとする支援スタッフが常駐しており、
学生達はカリキュラムを超えて、自分の好きな課題に取り組めるというわけです。確かに、
素晴らしい取り組みだと思います。では、このようなオープンラボによる学生教育はうまく
行っているのでしょうか?私はFD活動から完全に足を洗ってしまったのですが、やはり他大
学の取り組みの成果が気になります。実は、こういったオープンラボが話題になるかなり以
前から、私はそれに近いことを個人的に試していました。私がやっていた「ラボラトリ
オートメーション」という講義も、そしてこの気象観測システムも、その一環として取り
組んでいたというわけです。

 答えですが、私の個人的な見解ではありますが、かなり難しいと思います。完全にNoと
まではいかないかも知れませんが、少なくとも、明るい見通しはないだろう、というの
が正直な感想です。

 そう考える理由の第一は、学生さんが多忙であることです。
 そもそも、こういった自由課題に自ら関心と興味を持って積極的に挑戦しようと考える
学生さんは、例外なく行動的です。当然、学業だけではなく、クラブ活動やアルバイト、
そして交際にも積極的ですから、スケジュール帳はいつもぎっしりです。結果として、
自由課題に取り組んでくれたとしても、それに費やせる時間は少なくなってしまいます。
 実際、この気象観測システムに協力してくれた学生さん達も、揃って明朗快活な好人物
で、テニス部、タッチフットボール部、合唱部、合気道部など、それぞれのクラブで中心
的な役割を演じています。いくら学習面での意欲を喚起したいといっても、彼ら彼女らの
活動をスポイルすることは許されません。

 教員としては、積極性のある学生達になるべく早い時期に機会を与えて飛躍させてやり
たいという気持ちは山々なのですが、実際にはこのように難しいというのが現実です。も
ちろん、それでは単位にすればいいなどという単純な話ではありません。通常のカリキュ
ラムですら既に一杯一杯で、学生達の発想力や企画力、行動力を錬成する取り組みを行う
余裕など全くないからです。

 向学心と積極性の芳しくない学生さんの意欲をどのようにして喚起するか、という大学
教育における最も難しい課題と並んで、これは非常に難しい問題だと思います。

 対処法は、残念ながらこの私には思いつきません。数年間の取り組みの結論です。