<積雪環境が日本海側冷温帯下部における植生構成種の生態や動態に及ぼす影響の解明>

2−1の冷温帯スギ落葉広葉樹林における研究結果のように、積雪環境と森林植生との間に関連性があることは古くから指摘されています。例えば、日本海側多雪地のブナ林では、ミズナラ、カエデ類、ホオノキなどの落葉広葉樹を伴うものの、ブナが圧倒的に優占している場合が多いのに対し、太平洋側少雪地のブナ林では、ブナは必ずしも優勢ではなく、モミやウラジロモミ、イヌブナ、ミズナラ、カエデ類と混生していることが多くなっています。また亜高山帯の針葉樹林でも、太平洋側ではコメツガやシラベが優勢であるものの、日本海側ではアオモリトドマツが優勢となることが知られています。常緑性樹種のカヤ、イチイ、イヌガヤ、ユズリハなどは、太平洋側では高木・亜高木層まで達する生育形を持つのに対し、日本海側の多雪地では低木・矮性化し、それぞれチャボガヤ、キャラボク、ハイイヌガヤ、エゾユズリハという変種として日本海側の植生を特徴付ける種(ヒメアオキ、ヒメモチ、ユキツバキ、ハイイヌツゲなどとともに日本海側要素と呼ばれます)となります。さらに天然スギも、日本海側では、雪圧により枝が地面に接地しそれが新しい地上幹となる伏条更新という多雪地特有の更新形態を有しており、太平洋側のスギ(オモテスギ)と区別して、ウラスギ、アシウスギとも呼ばれます。こうした日本海側と太平洋側の違いは、積雪のもたらす様々な環境要因(雪の保温効果、機械的雪圧、生理的雪害、生物間相互作用の変化など)が、長年にわたり個々の種の生態や動態に影響を及ぼしてきた帰結であるといえます。







 
日本海側の植生を特徴付ける種の分布下限は、およそ最深積雪50cmのラインと一致することが報告されています。京都府におけるこの50cmのラインは京都府中部を通っており、以北の京都府北部の冷温帯域では、日本海側の植生を特徴付ける種が多く出てきます。しかしながら、この地域には標高1000mを超える山はなく、緯度も低いことから、地球温暖化が進行すれば積雪量が大幅に減少することが予測されます。私は、特にこうした積雪量の変化を受けやすいと考えられる京都府北部にある冷温帯下部の植生に着目し、積雪環境と個々の構成種の生態や動態との関係を定量的に明らかしようとしてきました。

これまで、

     マイクロサテライト分析(DNA分析)を用いた日本海側天然スギの伏条更新の実態の解明

     日本海側要素エゾユズリハの繁殖特性の解析

     日本海側要素チャボガヤの株構造の解析

等を行ってきています。

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