<冷温帯天然スギ優占域における落葉広葉樹混交メカニズムの解明>

 日本海側における天然スギは伏条更新というクローン成長を行えることから、
親木の周辺に複数の稚樹を待機させることができます。人為的な影響の殆どない京都大学芦生研究林の冷温帯スギ落葉広葉樹林では、伏条更新由来のスギ稚樹が多くみられ、尾根部から斜面上部にかけてはスギの優占率が非常に高い林相となっています。一方で、ブナ、コハウチワカエデなどの樹種も低い頻度ながら混在し、林内にはそれらの稚樹も比較的多くみられます。このことは、スギの優占域においても、ブナなどの落葉広葉樹の更新が連続的に行われていることを示唆しています。これまでブナの更新については、様々なブナ林において研究がなされてきており、ギャップ依存的に更新することや、同種樹冠下よりも他種の落葉広葉樹樹冠下、親木から離れた場所で更新の可能性が高まること等が指摘されています。スギ優占林分におけるブナをはじめとする落葉広葉樹の更新サイトはどこなのか、常緑のスギ優占林下では異なるパターンが観察される可能性もあります。また近年、スギ人工林の天然林への誘導が試みられつつありますが、天然スギ優占林におけるブナなどの落葉広葉樹の更新サイトを定量的に明らかできれば、こうした試みに科学的な視点からアドバイスをできる可能性もあります。

 大学院生で在籍していた國永くんの精力的な調査により、ブナの優占域ではスギが、ブナ樹冠周辺のスギ優占域ではブナが相互置換的に更新を行ってきていることが明らかとなりました。



(写真 左上:スギの中に広葉樹が混交している外観、右上・左下:林の内部、右下:スギ林内のブナの稚樹)

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