<森林の分断・孤立化が種個体群の維持に及ぼす影響の解明>
近年、森林の分断・孤立化や面積の減少などが進行しており、森林を構成する植物種は、個体密度の低下や集団内個体の平均血縁度の増加(血縁個体が多くなる)などといった状況変化にさらされることが多くなっています。植物は固着性であるものの、風・動物といった外的媒介に依存した花粉・種子散布を通じて遺伝子の分散がおこり、それによって種個体群が維持されています。植物の生活史の中で種子を生産する繁殖の過程では、森林の分断・孤立化に伴い、個体密度の減少に伴うポリネーターの行動変化や風媒による花粉散布量の減少、平均血縁度の増加に伴う近交弱勢の発現などがおこる可能性があり、その影響を最も受けやすい過程であるとも言えます。従って、分断・孤立化した森林では、中に入ると目に見える変化はおこっていなかったとしても、次世代の個体群の更新に大きな影響が及んでいる可能性があります。私はこうした点に着目し、人為撹乱により生育地の分断・消失が著しい東海地方の絶滅危惧種シデコブシを対象に、人工受粉実験や遺伝解析を行い、繁殖過程の解明や集団の分断・孤立化(小集団化)が繁殖に及ぼす影響の解明を試みました。
(写真 左:シデコブシの花、右:シデコブシの株の様子)
その結果、
・シデコブシは、多くの個体がみられる大集団においても、ハクモクレン亜属特有の繁殖様式により近交弱勢や花粉不足が生じやすく、種子による繁殖が制限されていること
・シデコブシは、小集団化に伴い、近親交配による近交弱勢、花粉不足、遺伝的劣化(対立遺伝子多様性の減少、近親交配の増加)の影響が高まり、種子生産がさらに制限されること
等が明らかとなりました。
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