植物は、実に様々な形の器官を作ります。それは、長い歴史の中で培われた環境適応・花粉を運ぶ虫との共進化・ヒトによる育種選抜などの産物です。多くの場合、目が向くのは「出来上がった形」です。例えば、花には咲いた時に最も人の目が向けられます。しかし、その形は、閉じられたつぼみの中で、細胞分裂や細胞分化が繰り返し行われて、時間をかけて作られます。
我々のグループでは、形態が出来上がる「プロセス(過程)」に注目しています。プロセスが分かれば、植物器官が作られるメカニズムが分かり、より良い形をもつ農作物を早期に選んだり、DNA組換え・ゲノム編集技術等を使って新しい品種を作り出すことに繋がります。
研究室では、花や虫こぶ(ゴール)を作り上げる遺伝子の機能、細胞動態、昆虫との関係性などを、組織学・解剖学・細胞学・分子生物学の手法を用いて調べています。
虫の中には、植物の発生システムを乗っ取って自分に都合の良い「虫こぶ(ゴール、虫えい)」を作るものがあります。植物は普段ゴールを作らないので、虫が植物の抵抗性を抑えつつ(あるいは利用しつつ)、植物側の細胞分裂・分化システムを利用していると推測されます。このゴール形成メカニズムや機能を調べ、新しい植物改変技術の開発を目指しています。
園芸花卉作物として広く栽培されているアサガオには、昔から様々な変化アサガオが知られています。そのうちのひとつ、「台咲」と呼ばれる系統は、花弁が曲がって中心に「茶筒台」のような構造を作ります。この原因が、花冠とがく片表皮にある分泌腺毛の有無にあり、つぼみ中の花器官どうしの摩擦を軽減することで、花弁伸長がスムーズに行われることが判明しました。現在、台咲変異の原因遺伝子の同定を目指しています。
シラサギが羽根を広げて飛んでいるような、とても美しい花を咲かすサギソウは、野生ランの仲間です。環境省のレッドデータブックでは準絶滅危惧種、京都府のレッドブックでは絶滅寸前種に指定されています。サギソウの美しさを作る仕組みを調べるとともに、保全に向けた遺伝的多様性評価、系統解析、培養による増殖法の確立の研究を進めています。
花弁(花びら)は花器官の中で最も色や形が多様であり、花粉を運ぶ虫などをひきよせる役割を持ちます。花弁を作る様々な仕組みについて、シロイヌナズナを用いて遺伝子、細胞、組織レベルで明らかにする研究を進めています。
40%を下回る食料自給率、化石燃料輸入に頼るエネルギー源、温暖化、開発による水・土・空気の汚染など、現代日本社会は、食糧生産に関しても様々な問題を抱えています。これらの問題を解決するために、植物や昆虫の能力を利用した、環境負荷の極めて少ない農作物生産技術の開発を進めています。具体的には、植物を育てるGreen-Agriと、食用昆虫飼育のInsect-Agriを組み合わせた「環境循環型アグリシステム」の実証実験を進めています。
農薬や化学肥料を使わず、自然のシステムに倣って農作物を育てる「自然栽培」を進めている農家さんと協力し、慣行農法との違いを生物学的な視点から調べています。また、実際に大学圃場で自然栽培にトライして、無農薬・無化学肥料でどのような作物が栽培できるのかを検証しています。さらに、京田辺市の遊休農地で、市民参加型の自然栽培を実践しています。
食用昆虫は、新たなタンパク質・脂肪源として注目されつつあります。我々の研究室では、米ぬか、ふすま、おからや野菜・果物クズなど、農業残渣による食用昆虫の飼育システムの確立を進めています。さらに、食用昆虫の機能性成分や商品開発などにも、取り組んでいます。
国内外の研究者や自治体、学校などと、共同研究を進めています。
・絶滅危惧種「ヒメザゼンソウ」の保全(綾部市・光野との共同研究)
・サギソウの保全・普及に関する教育活動(南山城村・笠置中学校との取組み)
・花き作物(ハス、ラン等)の収穫後鮮度保持技術開発(タイ・TSU, KMUTTとの国際共同研究)
・タイでの食用昆虫文化の調査(タイ・PSUとの国際共同研究)