*研究内容 [#sed5e9a2]

本研究室は原子核ハドロン物理学研究室です。現在、国内外の実験施設で得られた原子核ハドロン実験のデータに対して''「その背後にどういう物理が隠されているか」を数値計算・シミュレーションを行なって探究''しています。

本研究室では、主に以下の内容を研究しています。また、最後に研究の[[キーワード>#u3720f8a]]を解説します。


*新しい核力 [#jf3f8914]

「我々の宇宙を形作る力」の一つに、''「核力」''があります。核力とは、陽子と中性子(合わせて「核子(かくし)」と呼びます)や陽子どうし、中性子どうしの間に働く力です。核力によって、陽子と中性子の束縛系「原子核」が形成されます。

現在、国内外の実験施設の充実により、核力の世界が大きく拡がってきています。核子のなかのアップクォークやダウンクォークを違う種類のクォーク(例えばストレンジクォーク)に人工的に変えて、核力そのものも変えることが可能になってきたのです。

本研究室では、この''「新しい核力」''の性質解明を実験グループと協力して進めています。


***核子と K&super{bar}; 中間子の間の新しい核力の検証 [#s5322804]

&ref(./dsdMdq_pmmp.png,90%); K&super{-}; d → π Σ n 反応の起こりやすさ [日本物理学会 2019 年秋季大会、17pS31-11 の発表スライドより].

核子と K&super{bar}; 中間子(ストレンジクォークと反アップクォーク、またはストレンジクォークと反ダウンクォークからなる)の間に働く新しい核力は、いくつかの理論計算により強い引力が示唆されています。

この強い引力を実験で検証するため、我々はハドロン反応 K&super{-}; d → π Σ n を実験で観測することを提案しました。どれだけ反応しやすいかを理論計算して示したのが上の図です。M&subsc{πΣ}; = 1.425 GeV、q = 0.25 GeV 付近の、黄色で示されたよく反応している箇所を詳細に調べれば、核子と K&super{bar}; 中間子の間の強い引力を検証できることを明らかにしました。


***核子と Ω 粒子の間の新しい核力の構築 [#ibf60905]

&ref(./Vr_compare.png,80%); 核子と Ω 粒子の間の新しい核力(実線と破線が我々の理論計算) [Phys. Rev. C98 (2018) 015205 より].


核子と Ω 粒子(3 個のストレンジクォークからなる)との間に働く新しい核力は、最近の数値いくつかの理論計算により強い引力が示唆されています。

この引力の性質を明らかにするため、我々は、湯川流の中間子交換による長・中距離相互作用とクォークの力学が重要な現象論的短距離力を組み合わせた、ハドロン間相互作用の新しい記述方法を提案し、引力の起源を議論しました。


*新しい原子核 [#u3979355]

上で議論した[[新しい核力>#jf3f8914]]が強い引力ならば、通常の核力が核子たちを束縛して原子核を形成するように、新しい核力で束縛する''「新しい原子核」''も存在するはずです。この新しい原子核の存在可能性を探究しています。

***ハドロン分子状態 [#zdaa9db9]

&ref(./WF.png,80%); 核子と Ω 粒子によるハドロン分子状態の空間的構造 [Phys. Rev. C98 (2018) 015205 より].


2 個のハドロン間に働く新しい核力が充分に強い引力のとき、2 個のハドロンは、2 個の原子が分子を作るように、束縛状態を作ります。これを''「ハドロン分子状態」''と呼びます。これまでの研究で得られた新しい核力を用いて、ハドロン分子状態の構造を計算します。

***K&super{bar}; N N 原子核 [#pb5a890e]

&ref(./dsdM_2nd-cut_A_comp_BGsubt.png,80%); K&super{-}; &super{3};He → Λ p n 反応の起こりやすさの、我々の理論計算(線)と実験データ(点)の比較 [JPS Conf. Proc. 26 (2019) 023009 より].


核子と K&super{bar}; 中間子の間に強い引力が期待されているので、新しい原子核''「K&super{bar}; N N 原子核」''の存在も予想されます。この K&super{bar}; N N 原子核の存在を示唆する実験データが 2019 年に公開されました。我々は、この K&super{bar}; N N 原子核の生成反応 (K&super{-}; &super{3};He → Λ p n) を理論計算し、実験との矛盾がないことを示しました。この結果は、実験で K&super{bar}; N N 原子核が実際に生成されたことを強く支持しています。


*キーワード [#u3720f8a]

***量子力学 [#fe15a9c3]

&ref(./QM.png,100%);


原子以下のミクロなスケール (おおよそ 0.1 nm = 10&super{-10}; m) で見えてくる、我々の日常的な常識とはちょっと違った物理学。

電子が原子核に完全に落ち込まずに原子核の周りを回るのも、我々の宇宙に「スイヘーリーベー…」と多様な元素が存在するのも、量子力学のおかげ。

***クォーク [#p9feb8df]

#ref(./qqq.png,50%)

現在のところ、実験で確認されている最も基本的な粒子(の一種類)、いわゆる「素粒子」。

クォークには 3 つの形態があります。色の三原色になぞらえて、その 3 形態は「赤」「緑」「青」に分類されます。実はクォークは、クォークの力学(「量子色力学(りょうしいろりきがく)」という量子力学の理論の一つ)のため、単独では取り出せません。実験で直接観測されるのは後述する「ハドロン」で、それらはクォークが「白色」になるように組み合わされています。

さらに、クォークには 6 種類(アップ、ダウン、ストレンジ、チャーム、ボトム、トップ)あります。しかし、我々の身の回りの物質では、原子核の中にアップクォークとダウンクォークの 2 種類が存在するだけです。その他の種類のクォークは、加速器実験で人工的に生成されます。

本研究室の影の主人公。

***ハドロン [#w8acb295]

&ref(./baryon_v3.png,50%); バリオン 陽子、中性子、Ω 粒子など
     
&ref(./meson_v3.png,50%); 中間子 π 中間子、K 中間子など

「赤」「緑」「青」の色を持ったクォークが「白色」になるように組み合わさった粒子。「赤」「緑」「青」の三色を使った 3 個のクォークからなる''バリオン''(陽子、中性子、Ω 粒子など)と、ある色とその補色(例えば、「赤」と「シアン」)を使ったクォーク-反クォーク 2 体形の''中間子''(π 中間子、K 中間子など)が存在します。

大きさ約 1 fm = 10&super{-15}; m。

ハドロン間には、クォークの力学に起因する''「強い相互作用」''と呼ばれる相互作用が働きます。

本研究室の主人公。


***原子核 [#x5d334d4]

#ref(./nuclei_v3.png,75%) 

陽子と中性子が、強い相互作用の一形態である''「核力」''で束縛した系。上の図では、色付きの輪一つ一つが陽子または中性子を表します(なぜこのような「赤」「緑」「青」そして「白」の色が付いているのかは、上の[[クォーク>#p9feb8df]]と[[ハドロン>#w8acb295]]の解説を読んでいただければ分かると思います)。

大きさは、数 fm から 10 fm = 10&super{-14}; m。


***強い相互作用 [#va699aa1]

#ref(./Hforce.png,50%) 

ハドロン間に働く、クォークの力学に起因する相互作用。核力がその代表。

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