西島隆明(教授)

はじめに

優れた食味、高い観賞性をはじめとする野菜・花卉類の有用形質は、原種からの育種の過程で生み出された多様な変異の蓄積によってもたらされました。私は、野菜・花卉類の育種の過程で起こる変異の発生機構、ならびに、変異の蓄積によって生み出される有用形質の発現機構の解明を目指しています。さらに、これらの知見に基づき、優れた形質を持つ野菜・花卉の育種素材の開発に取り組んでいます。

  

サトイモの交雑育種法の開発

サトイモは、日本では縄文時代から栽培されており、古い歴史を持つ作物です。しかし、花を咲かせることは稀で、交雑育種がほとんど行われていません。そのため、育種がほとんど進まず、古い品種が未だに多く栽培されています。本研究テーマでは、サトイモの花成誘導条件、ならびに花成制御機構の解明を進めています。また、サトイモは、開花しても種子形成率が低く、交雑育種を行う上での障壁となっていますが、その原因解明にも取り組んでいます。これらの研究結果に基づき、交雑育種技術の開発を目指しています。

結球の機構解明と制御技術の開発

ハクサイやキャベツの美味しさと優れた輸送性、貯蔵性は、結球することで初めてもたらされました。しかし、結球がどのようにして起こるのか、そのメカニズムはほとんど解明されていません。本研究テーマでは、結球の過程における葉の成長のシミュレーションと、細胞レベル、分子レベルでの葉の成長制御機構の解析を組み合わせることで、結球のメカニズム解明に取り組んでいます。また、その結果に基づき、結球野菜の育種の効率化、さらには結球を計画的に誘導する手法の開発を目指しています。

トランスポゾンを利用した花卉育種技術の開発

夏の花壇でよく見かけるトレニアは、日本では明治時代から親しまれており、栽培の歴史は決して短くありません。しかし、一重の花の品種しかなく、観賞性には限界がありました。本研究テーマでは、DNA型トランスポゾンの転移が活性化した突然変異体を利用することにより、カーネーションのような八重の花や模様の変化した花をはじめとする様々な新しい変異系統が得られました。現在、引き続き新しい変異体をスクリーニングするとともに、変異の原因遺伝子と形質発現機構の解明を進めています。さらに、この結果に基づき、観賞性に関わる形質の効率的な育種技術の開発を目指しています。

  


伊達修一(講師)

はじめに

野菜、花卉の高収量、高品質、安定生産を実現するための栽培技術を開発し、さらにその普及に努めることを目標として研究しています。主な手法として養液栽培(土を使わずに,肥料を水に溶かした「培養液」を与えて作物を栽培する方法)により植物を栽培して実験を行っています。その発展型として植物工場における新規機能性野菜の生産技術の開発も行っています。その他、他国から我が国へ新しい野菜として導入する試みも行っています。

  

トマトの栄養繁殖技術の開発

トマトを栽培していると中肋から不定芽が多数発生してきます。通常、この不定芽は生産の邪魔になるために除去されますが、一方でこれを繁殖および育種に利用できる可能性が考えられます。そこで現在はこの不定芽の発生を促進する条件を探索し、実際に繁殖に利用するための技術を開発することを目的として研究しています。現状ではトマトの多くの品種は種子で繁殖させますが、この研究が実を結べば「うちの農場の品種」といったものが多くの農家で持てるようになるかもしれません。

野菜の品質を向上させる栽培技術の開発(特に植物工場)

植物工場では野菜を生産するには光熱費などのコストがかかります。したがってそのコストを吸収できるような高付加価値(食味や機能性成分)を持った野菜の生産が必要になります。現在、多くの研究施設でこの高付加価値を持った野菜の生産技術の開発が行われています。その中で私はゴマに着目し、ゴマ幼植物体を高機能性葉菜として生産する技術の開発を目指しています。

野菜の生理障害発生の原因究明と防止技術の開発

野菜が生育する期間中に、主に地下部の養水分を含む環境条件により様々な生理障害が発生します。その中には特に養液栽培・植物工場で発生するものがあります。野菜の安定生産を実現するためにはその発生原因を明らかにし、発生防止技術を開発することは欠かせません。これまでに水耕栽培における残留塩素による根部障害の発生メカニズムを解明し、回避技術を確立してきました。また現在は、上の植物工場における高機能性葉菜としてのゴマ幼植物体の生産において発生する葉の褐変の発生原因の解明と発生可否技術の開発に取り組んでいます。

 

新規野菜の導入に伴う安定生産技術の開発

本研究室では過去にヤマノイモ科植物であるダイショを導入しました。これを精華町における地域特産農産物として普及することを目指しています。一つ大きな問題点として、食用となる「担根体」と呼ばれるイモの褐変の発生があります。現在はその発生条件の特定と発生回避技術の開発を目指しています。また一方、このダイショをグリーンカーテンとして利用する取り組みを行っていたり、担根体を焼酎の材料や菓子の材料として利用するなど「地域特産農産物」のイメージに合った多面的な利用方法を考案しています。