I. バラ科果樹の種間障壁に関する研究

種間交雑親和性の解明

植物には異種との交雑を避けて種の同一性を維持する保守的な生殖機構が存在しています.このため,種間の交雑は通常成立しません.しかし稀にこの障壁が打破された場合,新しい特性を持った新種が誕生します.本研究課題では,経済的に重要な果樹作物を多く含むバラ科を研究対象として,種間交雑親和性を網羅的に調査しています.本研究室のある精華農場はナシ,リンゴ,モモ,ウメ,スモモなど数多くの果樹を保有しており,豊富な遺伝資源を活用して研究を進めることができます.春先の受粉シーズンは本研究室が最も慌ただしく,かつ活気に満ち溢れる時期です.卒業する頃には受粉作業が大好きになっていることでしょう.

  

種間障壁のメカニズム解明

本研究室で行った種間交雑試験により,バラ科果樹は近縁種間においても非常に多様な種間障壁パターンを示すことが明らかとなりました.バラ科果樹は交雑障壁機構の全貌解明とその打破方法の開発に向けた重要なモデルと捉えることができます.本研究課題では多様な植物材料や解析手法を駆使して,種間障壁のメカニズムを解明し,それを打破して雑種果樹を効率的に作出する技術開発を行うことを目指しています.フィールドからラボ,基礎実験から応用実験まで多彩な技術を駆使して謎に迫ります.

雑種果樹の育成とその利用

新品種作出のために一般的に用いられている同一種内の交雑では,得られる後代で生じる表現型の多様性がしばしば限界を迎えます.この問題を解決するための有効な手法が「種間交雑」であり、種の遺伝的多様性を飛躍的に向上させて,種特異的な農業生産上の課題を解決することができます.さらに,各種の持つ有用形質を良いとこ取りした全く新しい作物は新たな産業の創出にも繋がる可能性を秘めています.本研究課題では,種間交雑技術によるハイブリッド果樹の作出とその園芸的利用の可能性を検討しています.未来の有望品種の作出に関わってみませんか?

育成中の雑種実生

II. 果樹の効率的育種技術の開発

ウメ品種群にみられる形質多様性の調査

ウメは古来から利用されており,様々な果実加工品として日本人になじみの深い果樹です.スモモやアンズとは遺伝的に近縁で種間雑種も報告されています.本研究課題では,果実利用を目的とする実ウメから鑑賞用の花ウメに至るまで,多様なウメ品種群(約100品種)における食味関連形質(有機酸,香り成分)の多様性を調査しています.優れた品種の特徴を明らかとすることで,ウメの品種育成において育種目標となる形質を特定することを目指しています.

重要形質に関する遺伝機構の解明とDNAマーカーの開発

果樹は播種から初結実までに非常に長い年月を要するため,育種過程において果実形質の調査には多大な時間と労力・コストがかかります.本研究課題では,果樹育種の障壁となっている形質選抜を効率化するために,育種目標となる果実形質の遺伝機構を解明し,実生の早期選抜を可能にするDNAマーカーの開発を目的としています.

  
 

III. 京都府の特産果樹の振興に関する研究

ウメ品種「城州白」の形質評価とブランド化

「城州白」(じょうしゅうはく)は京都府城陽市でのみ栽培される貴重なウメ品種です.他の品種と比較して果実サイズが大きく,香りが非常に良いことが特徴です.本研究室では,栽培農家や自治体と連携して城州白の優れた特性を評価しており,知名度の向上やブランド化に繋がるような情報や技術の蓄積を進めています.希少品種・在来品種の研究に興味のある学生をお待ちしています.

城州白の結実の様子